アップデートする学校事務職員

2050年学校事務職員への伝言

3時限目:アップデートする学校事務職員:人材育成の失敗と職種アイデンティティ

 3時限目は、学校事務職員を育てる「人材育成」について書く。

 

①学校事務職員に採用されると、1990年までの長野県は、新規採用学校事務職員を辞令発令の4月1日から学校現場へ放り出した。

 何故?少なくとも最初は仕事のトレーニングが必要でしょう!

 えっ、ほんとに。私しかいないのですか?

 ここがあなたの仕事机だから、ここに座って仕事しろって。

 で、誰が私に仕事を教えてくれるんですか?誰もいない!

 隣の学校の事務職員に教えてもらえって。

 どこの世界に、素人にプロの仕事させる人がいるんですか?

 県教委ですか?(市町村の学校なので市教委の責任ですね)

 市教委ですか?(県教委が採用したので県教委の責任でしょ)

 誰も、どうやって人材育成するか、考えていないんですか?

 人を採用しても育てなければ、税金の無駄遣いです。

②私が採用された時代、前任者から次のように事務引継を3月末にした。

「とりあえず4月新年度はこれとこれとこれの書類を作成して教育事務所と市教育委員会に提出してください。書類作成の見本は昨年度の書類を見て作ってね。字句の間違いがないか、校長先生に確認してもらって、校長印をいただくこと。とりあえず4月のスケジュール作っておいたから。頑張って」というものだ。

③事務引継をしても、新人には、まず仕事の単語が分からない。

というか、仕事の全体像が分からないのだ。だから、なんのこっちゃ、というわけである。もうここで、戦意が落ちてしまう。てっきり前任者から仕事のイロハを教えていただけるものと思っていた。この新人育成問題は、学校に事務職員1名配置という現実から生まれる。仕事が分からず、前任者の異動した学校へ何度電話したことだろうか。

④私が採用されたこの時代、新人事務職員の就職3年以内の定着率は50%程度だったと思われる。私自身も何度仕事を辞めようかと思ったことか。就職10年以内の定着率は20%だと思われる。私の同期30人で10年後に残っていたのは私を含めて6人だった。定着率が悪いのは、学校事務職員を採用する県教委の人材育成の失敗だと私は思わざるを得ない。教員は、学生時代に教員免許取得の段階で教育実習というトレーニングがされており、学校に採用されても先輩教員からのサポートが受けられるようになっている。ましてや、教員は初任者研修制度ができてから1年間のサポート付きだ。

⑤「学校事務職員」をどうやって育てるかというテーマは、学校事務研究会のテーマでもあったし、それは県教委へ投げかけられていた。それは「研修計画」という形で県教委へ提案され、事務研と共催という形になって全県600人近くの学校事務職員が集まる研修大会となった。しかし、1人校の多い長野県は現場で仕事に悩む若い事務職員が多かったのだ。

⑥長野県では1990年に大規模小中学校へ事務職員を複数配置(2名)できるようになったのをきっかけに、新人を大規模校に1年間配置しOJT(オン・ジョブ・トレーニング)研修させることになった。それでも職業適性から退職する事務職員がいるのはやむ負えないが、昔に比べればはるかに少なくなった。

⑦「職業アイデンティティ」というのを考えてみたい。

人は職業を選択しその仕事を始める。しかし一人では仕事を覚えることはできない。その仕事の先輩から教わる方が効率が良い。人は本から仕事を覚えるよりも人から仕事を覚えるのだ。その時、この仕事を行う職業の意味も教わる。人の存在意義は大きい。どんなに仕事が機械化されようとも、所詮、機械は道具にすぎない。道具を使うのは人。そして仕事をしながら「職業アイデンティティ」は少しずつ形成されていく。

⑧「アイデンティティ」は①自己の認識②他者の認識、この2つが必要だ。

学校事務について考えると、

①は自己の認識を形成するために「自分を育てる学校事務とは何かを教える親」が必要だし、

②は他者に存在を認識してもらうために「学校事務とはこういうものであると理解していただける顧客」が必要だ。

この「職業アイデンティティ」については、別のところで書きたい。私の20代はこのことで学校事務と格闘していた。格闘した結果を30歳の時に『学校事務』誌に投稿した■