アップデートする学校事務職員

2050年学校事務職員への伝言

14時限目:アップデートする学校事務職員:「学校事務」と「学校事務職員」

 14時限目は、「学校事務(仕事)」と「学校事務職員(人)」を分けて考えることが必要だ、ということについて書いてみる。 

①1時限目から13時限目まで「学校事務(仕事)」と「学校事務職員(人)」について書いてきた。仕事が人を作るし、モチベーションを持った人が仕事をさらに良いものにすると考えたい。

②1人で仕事をしていると「学校事務=学校事務職員」のように勘違いしてしまう。それは無理もない話だ。1人でできる「学校事務」仕事の範囲は限定される。それが「その人の学校事務すべて」であり、それを処理するのが「私という学校事務職員」なのだと。それを間違いとも言えないのが現実だ。これは経済学でいう「規模の経済」という話だ。つまり組織が大きくなると事務組織も大きくなる、仕事も大きくなるという話だ。

③では「学校事務」を公立に限って類推してみよう。

・国立大学 大組織に対応した「事務局組織」

・県立高校 中組織に対応した「事務室組織」

・市町村立小・中学校 小組織のため「事務職員一人」統括は「教育委員会事務局」

④大学や高校は学校経営に必要な事務を分担するために学校事務を組織している。では小中学校はどうなのだろうか。今まで学校経営されていなかったのか?

そうなのだ。小中学校は経営されていなかった。

学校長は学校を「運営」していただけなのだ。

⑤学校長は事務職員を1人配置してもらって、とりあえずの事務処理を任せていたのだ。公務員として法令に基づき間違いのない事務処理を期待していたのだ。そして、時々来客にお茶出してもらえる従順な事務職員を期待したのだ。

それは40年前までの昭和時代の小中学校の学校運営だ。

えっ!まだ昭和の学校運営している学校があるって!

⑥2000年代に入って「学校組織マネジメント」という言葉がトレンドになった。

文科省の肝いりで、全国の小中学校で学校長のマネジメント研修が始まった。「これからは学校経営ですよ。組織の目標を決めて、到達できたのか評価をしてください。」「少ない人材を有効に活用してください。そして諸問題に対応するために、学校にチームを作りましょう」「学校事務職員も学校唯一の行政職員です。彼らの力も借りて学校を経営してください。」「教員の仕事量が多いって。様々な視点から学校教育の見直しをしてください。いらない行事や省略できる事務があればやめましょう。」

⑦「学校事務」は教育行政の学校現場バージョンで、学校現場に合わせて学校事務職員は仕事の重点を変化させる。しかし、学校経営事務は複数人で行う組織的なものなのだ。学校事務職員1人では組織と言わない。

⑧小・中学校は義務教育として国の責任で、全国的に教育の平等と水準維持が必要なので市町村の財政規模にとらわれないように県費で、とりあえず学級数で事務職員を配置することになった。

⑨この時限の最初で書いた「1人の学校事務職員=学校事務」観は、学校事務職員配置の歴史から見ても仕方のないことだった。だからそう勘違いすることは間違いでもないのだ。でも、先輩学校事務職員たちは、「学校事務」は学校経営として事務組織で行うことを知っていたし、どうやって小中学校に事務組織を作ればよいのか悩んでいた。

⑩昭和の学校事務職員は、3種類にタイプを分けることができる。

1:学校事務を事務組織で行いたい行政志向タイプ

2:学校事務は教育サポートに徹する教育志向タイプ

3:学校事務で自己実現したい専門事務志向タイプ

⑪事務職員ひとり一人にこの3種類それぞれのタイプの強弱がある。

100%それだ、という人もいるかもしれないが、七味唐辛子のようにおそらく多くの学校事務職員はそれぞれを何%づつ混ぜていると思う。

⑫私は、1行政30%・2教育30%・3専門事務40%という割合で、結構バランス取れているタイプだと思う。だから、例えば、

1行政タイプの事務職員が「小中学校にも事務長制が必要だ」という意見を聞くと「必要だと思うけど、出世競争とか出てくるんじゃないのかなあ。それでもいいのかなあ。どうなんかなあ?」と思ったし、

2教育タイプの事務職員が「子どものために学校事務はあるんだ。子どもの意見を聞こうよ。」という主張を聞いて「それは確かにそうかもしれないけど、なんだか子どものためってうさんくさいなあ。どうなんかなあ?」と正直思った。

3の専門事務タイプにも様々な人がいて、「どっちみち学校事務なんて事務処理なんだから給料もらってお休みがいっぱいあるほうがいいよ。楽しようよ」という事務職員から「学校事務職員は小中学校専門の事務職員なんだから、学校教育に提案できるような事務職員になろうよ」という事務職員までいる。

⑬こういった「学校事務」や「学校事務職員」に関する様々な考え方や感じ方が多様だというのは、いいことだと思う。しかし、公務員なんだから、やっぱりなんか筋が通った職業観、職業倫理観が必要だと思う。こういった考え方が昭和の学校事務職員なのかもしれないなあ。

⑭義務教育現場に配置された「学校事務職員」は、日本国憲法26条(教育)を遵守する職業倫理観を持ちたいし、それを任命権者は学校事務職員として採用した時にレクチャーしてほしい。そういった学校事務職員を育成してほしいのだ。

⑮学校現場での義務教育の目的は2つだ。

1:国民はその能力に応じて等しく教育を受ける権利を有する

2:国民は子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は無償とする。

⑯「職業アイデンティティ」を形成する人材育成をどうやって行うか、を考えたとき、やっぱりこれは学校事務職員(先輩)が新規採用学校事務職員(後輩)に、直接行うことが肝要だと思うのだ。学校現場を知っている者が最適で、現場経験のない教育委員会職員や大学の先生ではリアルな学校現場と学校事務の皮膚感覚を持てないと思うのだ。そしてその人材育成は学校現場で行われなければならないと思う。

⑰2017年の地教行法の改正「共同学校事務室」は「学校事務のあり方」と「学校事務職員のあり方」を変える法改正だと思う。仮に、1947年の学校教育法で事務職員の配置が決まったことを「学校事務職員 Ver1」とすると、70年後に共同で仕事を行っても良いという法改正は「学校事務職員 Ver2」だ。

⑱しかし、人間は急にバージョンアップできない。学校事務職員自身は徐々にアップデートを繰り返して、「学校事務Ver1」から「Ver1.1」「Ver1.2」「Ver1.3」そして「学校事務Ver2」へステップアップできたらいいと思う。アップデートすることによってそこから見える景色があるだろう。最終的にはバージョンアップへと臨みたい。

⑲15時限目からは、大学生と新規採用事務職員に、どのように「学校事務」と「学校事務職員」をプレゼンしたのかを書いてみたい。■