アップデートする学校事務職員

2050年学校事務職員への伝言

20時限目:ジョブ型公務員?と「ゆでガエル問題」

①20時限目は、2時限目にも書いた「学校事務職員」という職業について、もう少し違う角度から書いてみる。現在の長野県の「学校事務職員」の採用方法と年齢構成も加味して書いてみた。

②15時限目で「大学生に学校事務をプレゼン」したことを書いた。

 教育学部の学生に「学校事務」と「学校事務職員」のことについて講義したのだが、「学校教育」というシステムに必要な職種「教員」という職業と同じように、「学校事務職員」という職業も必要となったことを話した。そして「学校教育」に「学校事務」という分野から私たちが関わっていることを話した。

③学校教育法に学校に必要とされる必置職員が明示されている。

 国が責任もって配置する職員は義務教育費国庫負担法で人件費も補助することになっている。つまり教育職員と事務職員はセットなのだ。そして、これら職員は都道府県単位で雇用して、県が市町村へ人的配置することになっている。

④教育職員は教特法により県教委が「選考試験」を行い、事務職員は県人事委員会が「競争試験」を行う。教育職員は教員免許が必要な資格職業だが、事務職員は資格を必要としないからだ。長野県人事委員会が行う「市町村立小中学校事務職員採用試験」というのが小中学校専任の事務職員採用試験の名称だ。学校事務職員は採用されたら教育現場で退職するまで仕事をする。だから、教育現場に配置する以上、教育に関する何らかの知識は必要となる。しかし2時限目で書いたように、採用後の学校事務職員になるための研修が無い。何度も言うが、これはおかしい。採用試験は県人事委員会で採用は県教育委員会だから、採用した県教育委員会が学校事務職員としてちゃんと仕事ができるように研修する必要がある。事務職員だから事務作業だけすればいい、という発想は悲しくないか。教育に関する知識は必要ないと考えているのかもしれない。

⑤小中学校専任の事務職員を正規採用したんだから、県教委に学校事務職員育成プランを作成してほしい。ここんとこはこのブログで何回も書いた。2022年に専門誌「学校事務」で政令指定都市横浜市が学校事務職員の研修内容に教育関係の講座を設定したという記事を読んだ。教員免許を持つ学校事務職員もいるが、全国的には多くないだろう。事務職員が授業をするわけではないので教員免許は必要ないが、子どもの見方や対応の仕方など、子どもと関わることが多いので、そういった分野の研修は必須だと思う。

⑥さて、話がそれてしまったかもしれない。長野県における学校事務職員採用の話だ。長野県は県職員も小中学校事務職員も採用年齢を35歳まで引き上げている。

県職員は初級職18歳~21歳、上級職22才~35歳と分けているが、

小中学校事務職18歳~35歳と一括になっている。

長野県の教員選考は20歳~59歳だ。(実際58歳の新規採用者がいた)

多様化した時代となり、社会経験のある公務員の雇用も必要だし、教育現場も変化が求められている。  

⑦日本社会の雇用は以前「日本型雇用」として、新卒一括採用で終身雇用、年功序列賃金というのが普通だった。つまり、雇用には「正規雇用」しかなかった。しかし2000年以降の新自由主義経済による雇用の自由化で、「非正規雇用」が増え、欧米型の契約雇用や労働力の流動性を働きかける転職サイトなどの雇用が目立ってきた。公務員もデジタル専門職のような職種も出てきている。

⑧雇用形態を「ジョブ型」「メンバーシップ型」と考えることが話題になった。

 日本企業の多くは今まで「メンバーシップ型」だった。これは仕事を特定せず、様々な仕事を経験して専門ではないオールラウンドな職員を育成して、年功序列を基本としてきたシステムだ。

 この雇用システムの中に「ジョブ型」というのが導入されてきている。「ジョブ型」とは特定の仕事を行う資格職のようなものだ。例えば、臨時教員は教員免許という資格を持っているので欠員の生じた学校で雇用される。そういったイメージだ。欧米資本の企業は最初からこの雇用システムが多く(資格は必要としないが、「自分には何ができる」というアピールが必要)、日本企業でのこの雇用方法は過渡期だ。

⑨だとしたら、「学校事務職員」は「ジョブ型」?と思えなくもないとも考えた。

 「学校事務職員」に専門性はあるのか?専門性を考えると、私は「学校事務職員に、もっと教育関連の研修を」と考えてきた。「教育」と「行政」のハイブリッド職種が「学校事務職員」ではないかと考えてみた。

⑩現職中に私は地区の事務研で「学校予算と教育課程」をじょうずにつなぐ研究をみんなで行ってきた。そういった研究の先に「教育行政職」としての専門性が培かわれてくるのだと思った。学校事務職員は、教育現場で教員とは違う視点でよりリアルな学校教育現場を見ているわけだし、自分の勤務する学校だけにこだわらず、地域の他の学校なども含めて大きな視点からこの地域の教育を考えることができるのだと。思うのだが。

⑪「教育行政職」という専門職員。これだと、文部科学省の職員も同じ、だ。

 長野県の学校事務職員の研究会などで、「私たちは教育行政職だ」というと「行政」という言葉にアレルギーを持つ学校事務職員がいた。「行政」は何か敵のように勘違いしているのだ。学校などの教育機関も行政機関の一つだし、そこで働く公務員は大きく行政職員というカテゴリーなのだが。その方の言われるには「学校事務職員は学校事務職員、教育に寄り添う職員」ということらしい。私には意味がわからない。

⑫さて、仮に「学校事務職」を「ジョブ型公務員」にしようとするなら、専門性を何かで担保しなければならない。それはやっぱり何か公的な資格を必要とするだろう。愛知教育大学で進めている資格や社会教育的な資格、あるいは教員免許も含めて、ということになる。それだと、1960年代に巻き起こった学校事務員の教育職化「事務教諭」論争を思い出させる。この「ジョブ型」やっぱ、何か違うよなあ。「学校事務職員」は、専門職にあてはまらないということか。

⑬話しを変えてみる。経営学の話題で「ゆでガエル問題」というのがある。

 それは、二つのお鍋を用意して火にかける。一つは沸騰したお湯、もう一つはぬるま湯。ここにカエルを入れる。沸騰したお湯に入れられたカエルはびっくりしてお鍋から飛び出す。ぬるま湯のカエルは、じっとしているが、やがてぬるま湯が沸騰してしまい、飛び出すタイミングを失ってそのままゆでガエルになってしまう、という話しだ。この話は、社会環境の変化が急激だと多くの人が気づいて何か対策を考えるが、変化が緩慢だと対策を考えるのが後手後手になって結局何もできなかった、という例えなのだ。学校事務の現場はどうだろうか?

⑭今の仕事、湯加減はどうですか?熱いですか?ぬるま湯ですか?

 長野県の小中学校事務職員の年齢構成を見たときに、団塊の世代が退職し、団塊ジュニア世代の退職がこの10年で始まる。長野県の小中学校事務職員の配置数のピークは1990年代の600人だったものが、2020年代になって500人程度になっている。少子高齢化で学校の統廃合も進んでいる。ベテラン事務職員の皆さんとこれから採用されるデジタルネイティブの事務職員の皆さんと、新しい長野県の学校事務を考えてみる時期になってきたように思う。■