書き忘れたことがあったので、「ぽち袋」として書き残しておきたい。
①それは「学校事務の知的生産の道具と技術」だ。
「それはなんだ」と思うかもしれない。
何かを考える時や気持ちよく仕事をするために必要な道具と技術のことだ。こういったことは、小中学校に事務職員として就職した時から興味を持っていたし、このことで研究会の講座用レポートを書いたことがある。(ブログ『学校事務職員Hの仕事』で公開している1997年「仕事の進め方と事務改善」 - 学校事務職員Hの仕事(1997~2016) (hatenablog.com))
②全国に事務用品や文房具に興味を持つ学校事務職員仲間は多い。若くして亡くなってしまった長野県の学校事務職員だったM君は「学校事務」誌2021年に文房具の記事を1年間連載していた。彼が亡くなったのは残念だ。現在の事務用品の進化についていくには、事務用品カタログを読むことを勧める。もちろん教材備品カタログも仕事として読むことを勧める。カタログから学ぶことも多い。
③古い話で申し訳ないが、仕事をしていた若い頃、80年代90年代にアナログ機器からデジタル機器への移行期に出会ってしまった人間として、記録として書き残しておく。
④▼かな文字タイプライター
1970年代後半、学校事務職員として就職した私は、当時傾倒していた文化人類学者の梅棹忠夫さんが書かれた『知的生産の技術』(岩波新書)を飽きるほどに読んでいた。この本は梅棹さんがフィールド調査に出かけてどのように情報を収集して整理して自分の考えをまとめるか、といった技術が書かれていた。
その影響で、私は学校というフィールドで参与観察する一人の事務職員という文化人類学者だと自分で考えていた。教育現場で暮らす教員族はどういった文化構造を持ち行動様式はどうなんだ、と学校現場を俯瞰していた。
この本の中で、特に魅かれたのは「かな文字タイプライター」だった。
⑤1960年代、梅棹さんは欧米人の様にタイプライターで日本語の手紙を打ってみたいと考えた。まだコピー機ができる前だったので、手紙のコピーをするのにタイプライターはカーボン紙を挟めば複写コピーが作成できる。それで、最初は英文タイプライターでローマ字手紙を打っていたらしい。しかしそれは読み難いと不評だった。梅棹さんのすごいところは、それで「ひらかなタイプライター」を丸善に特注した。「カタカナタイプライター」も特注した。かな文字はいい感じだが、やはり日本語は漢字かな混じり文だ。1990年の日本語ワードプロセッサーが発売されるまで漢字仮名混じり文の作成は待たねばならない。
⑥私は1980年に、丸善で市販されていた「ひらかなタイプライター」を飯田市の文具屋に注文した。その後「カタカナタイプライター」も購入した。
このタイプライターを学校事務の仕事に利用できないか?当時の予算執行は支出負担行為決議票を手書きで作成していた。市町村にもよるが4枚複写という所もあった。複写のため筆圧が強くなり、手や腕が痛くなった。私は普段から筆圧が高くて、この仕事は一苦労だった。私は数字の部分をタイプライターで打つことにした。予算伝票をカタカナタイプライターにくるくるとセットしてパチパチと打つのだ。うん!いい感じだ。
2000年以降に市町村財務会計が電算化されるまで、私はタイプライターで作成していた。内容欄などの日本語文字部分はボールペンで記入したが、それはそれで、何だかオフィスで仕事している、という自己満足だった。これも、仕事を楽しくするにはどうするかといった私なりの工夫のひとつだった。
⑦やがて、ワープロ、ノートパソコンと事務機器は進化していく。現在はPCはもちろんだがタブレットなど必須の時代だ。どのように仕事に生かされるのか、ソフトやコンテンツ等、学校事務研究会も活用研究が必要だ。研究されているのだろう。民間企業が進めているDXも参考にしたい。
現在は事務研は地域で情報共有のために事務職員仲間でチャットなど行っているのだろうか。
⑧▼ファイリング
私が採用された地区は長野県の飯田下伊那地方だ。ここの事務研は先進的な地区で、優秀な先輩方が大勢いた。
1970年代からすでに学校の文書をすべて「バーチカル・ファイリング」という方法で分類整理活用していた。70年代の後半に採用された私も、このファイリングの方法論を習得した。文書は分類整理されなければ活用されない。偉大な先輩たちの教えのおかげで、80年代人事異動で県内の各地へ赴任してもファイリング用品を購入して文書を分類して回った。
しかし、私は90年代からファイリングの方法をバーチカル方式(垂直)から簿冊方式(水平)に変更することにした。それは「学校事務の見える化」が必要だと思ったからだ。文書分類表は県教委の準則に則ってほぼ全県統一基準なので、それを壊すわけにはいかない。文書の活用・保管・保存の方法を変えたのだ。松本地域はフラットファイルによるファイリングだ。このファイルをファイリングキャビネットにしまい込むのではなく、職員に「見える化」するため書棚に並べる。学校事務職員の多くは単数配置なので、誰でも書類の所在がわかりアクセスできる方法として、書棚に文書分類表に則って並べてあることはメリットが大きい。もちろん個人情報もあるのでカギのかかるガラスの書棚が望ましい。
⑨▼「教務手帳ノート(事務職員版)」
教務手帳をどのように活用するか、悩んでいる人は多い。いらない、という事務職員もいる。しかし、スケジュール帳は必要だ。セルフマネジメントをするには、やはりスケジューリング技術が必要だ。ビジネス社会でシステム手帳が大ブームした頃、私も購入して使用してみた。しっくりこなかった。
教務手帳は毎年、おなじ判型でおなじ体裁、というのがいい。2000年以降、学校事務日誌的な、TO DO的な利用法をしてきた。そして、教頭から学校月暦が配布されれば、学校事務の月スケジュールを作成し、学校週暦が配布されれば、学校事務の週スケジュールを立てるようにした。そして毎朝いきなり仕事を始めずに今日のTO DOを書き出して仕事を始めた。
⑩現在はスケジューリングもデジタル化されているのでしょうか。個人の好みもあるので、方法はいろいろかもしれない。しかし、地区やもっと広い地域で情報共有するためにデジタル化は必須だろう。
新しい時代の学校事務職員の皆さんのデジタルから先のクラウド的な学校事務を開発していくと楽しいかもしれない。
でも、教育現場は人間と人間のリアルな場所。そこだけはデジタル化できないのでご注意を。■