アップデートする学校事務職員

2050年学校事務職員への伝言

15時限目:アップデートする学校事務職員:大学生へ「学校事務」をプレゼンする

 15時限目になりました。今回は2時限目にも書きましたが、現職中に考えていた「学校事務」をどのようにプレゼンするか?を、退職後に行うことができたのでその様子を書いてみました。プレゼンするということは、学校事務をどのように伝えたらよいのか、どのように理解していただけるのか、結構悩みました。「学校事務をプレゼンする」を一緒に考えてみましょう。

①2016年、退職後に松本市のM大学で教育学部を立ち上げるというニュースを報道で知りました。少子化時代の私立大学なので、学校経営の厳しさから様々な経営戦略を考えてのことだと思います。この大学は、地域の人材を育成して地域に還元しよう。地域の活性化を目指すという強いポリシーを感じさせます。実際に現場で役立つ学問を目指す実学志向の大学です。

②私はこの大学の学長に手紙を送りました。

「教員を目指す学生たちに、学校教育を支える職員として学校事務職員という仕事があります。義務教育学校の学校経営を担う事務職員です。学校事務という仕事のことを話したいのですが、可能でしょうか。」

③後日、返事がメールで届きました。

「OKです。ただ、教育学部のカリキュラムはすでに決まっており、この中に学校事務講座は入れられないので、学長の授業で学部生に講義する時間があるのでその時間の中で講義してください。」

④こうして私は4年間、2017年から2020年まで教育学部1年生に90分の講義をすることができました。講義の後で学生の感想を聞くと中には、教員ではなく学校事務職員になってもいいかも、という学生の感想もありました。

⑤さて、学部1年生に、どのように「学校事務」をプレゼンするか。教育学部ということは小学校の教員になりたいと希望して入学した学生たちです。私が話すことは、3年生や4年生になった頃にはおそらく忘れてしまうでしょう。だとしたらどうやってインパクトを与えるか。

⑥まず、学校現場は教員だけで学校を回しているのではないことを知ってほしい。ということ。そして、長野県内のどの小中学校へ行っても「学校事務職員」がいること、を知ってほしいと思いました。それで、プレゼンの題は「学校教育現場を支える職員ー学校事務職員からみた現場ー」ということにしました。

⑦内容を4部構成にして、

1ー学校の1日(教員の仕事) 

2-学校事務職員の仕事

3-学校教育現場を支える(チーム学校) 

4ー子どもたちの家庭(保護者のこと)

ということで話しました。

⑧講義のはじめに、学生に質問をします。

「自分が入学した小学校で、1年生の時の担任の先生の名前を憶えていますか?」

覚えている学生に挙手をしてもらうとほぼ全員が手を上げます。

「先生」という仕事は「記憶に残る職業」だと伝えます。

次に「学校に学校事務職員がいる、というのをいつ認識しましたか?」と聞き「小学校の時、中学校の時、知らなかった」と三択で挙手をしてもらいました。

ほぼ80%の学生が小学校の時には、学校事務職員のことを認識していました。

残り20%が中学生の時です。

⑨私はこの結果をみて、長野県が1990年以降に行った「学校事務職員の全校必置」によって、学校事務職員の認知度はかなり高くなったのだと思いました。そして、それぞれの学校で学校事務職員が活動をしているのだとしたら、認知度はさらに高くなります。そうでなくても、学校事務職員は「実は子どもたちから見られている」のだと、思います。「見られている」と心して出勤しましょう。

⑩講義の内容は次の通りです。

1-学校の1日 では、

 ・登校の時間から下校まで、学校内で起きるであろう様々な事例をあげました。学生たちは児童生徒でいた小学校中学校の生活しか知りません。これから教員になる勉強をして教員になろうとしているのですから、学校職員側からの視点で学校の1日を知ってほしいと考えて作成しました。多くの学生が、「そうなんだあ~」と驚きます。

 ・例えば、登下校時の思いがけない交通事故のこと。特に朝は出勤する車が急いでいます。学校は勤務開始前ですが、学校職員は交通事故でもあれば誰かが対応しなければなりません。勤務時間前だから関係ないというわけにはいきません。学校事務職員も「安全指導は教員の仕事だから私には関係ない」と思っている人が多いのではないでしょうか。児童生徒の通学路を知っておく、あるいは学区内を知っておくというのも、地域を知っておくという意味において、大事な学校教育の基礎となる情報です。

 ・朝の欠席連絡の電話が多いのも、学校あるあるですね。連絡帳でという学校もありますが、(最近はメールというのもある)、多くの親は電話を直接かけてきます。学校事務職員が対応することが多く、急な病欠はもちろんですが、不登校児の親からの電話も毎日対応します。もちろん職員会等で「気になる子情報」を教職員で共有しているのでそういった家庭には丁寧に対応します。

 ・こういった学校の一日の様子を下校時までトピックを上げて話し、教員の対応、学校事務職員の対応をプレゼンしました。学生たちは学校の教員がどのような意識で仕事をしているのか、そして学校事務職員がどのように対応しているのか、認識を新たにしたようです。

⑪2-学校事務職員の仕事 では、

 ・利害関係者(ステークホルダー)ごとの仕事でプレゼンしました。

 ・学校経営のヒト・モノ・カネ・情報のビジネス原則でなく、児童生徒保護者という顧客(カスタマー)を中心においたサービス(事務)で話したほうが、学校事務という仕事を理解しやすいのではないかと考えたからです。最初に「学校事務職員はどうすればなれるのか」について話します。県の採用試験を受験するところから話します。そして学校事務職員が教員と同じように憲法26条の理念を実現させるために配置されていることを話します。

⑫次に具体的な学校事務という仕事の中味を話します。

▶児童・生徒・保護者の学校事務サービス

・転出入等学籍管理・教科書・学校徴収金会計・学校給食会計・就学援助

▶教育環境の学校事務サービス

・公費予算による教材消耗品や教材備品の購入・学校施設の管理

▶教職員管理の学校事務サービス

・人事雇用・服務管理・福利厚生・給与旅費

⑬3-学校現場を支える(チーム学校) では、

 ・学校事務職員以外の学校職員について話しました。子どもたちにとって、学校の職員は教員だけでなく保健室や図書館、場合によっては事務室などが駆け込み寺的な意味合いを持つことがあります。

 ・私自身が、中学校勤務の時に事務室へそういった子たちが駆け込んできた経験があります。いじめ・不登校・子どもの貧困など、学校で対応する様々な事例に、担任や教員集団だけでなく他の学校職員も含めた全教職員で対応するという時代になってきました。

⑭4-子どもたちの家庭(保護者) 

 ・ここでは、本の紹介をしました。岩波ジュニア新書『正しいパンツのたたみ方』です。子どもが大人に成長していく過程に学校があります。教職員はその成長の手助けをしています。

 ・教員は教育活動をとおしてダイレクトに子どもたちに働きかけます。学校事務職員は教育条件整備をとおして間接的に働きかけます。場合によっては直接働きかけます。私は「事務室かべ新聞」をカレンダーの裏を利用して手書きで作成して廊下に掲示したことがあります。

⑮この本の大事な部分は、「人が自立した人間になるために4つの自立が必要」

だと書いています。それは、

1生活的自立(自分のことは自分でできる。家事は自事) 

2精神的自立(最終判断は自分で決め、それに責任を持つ)

3経済的自立(収入に応じた支出など見通しを持った生活ができる)

4性的自立(性を何かの目的や道具として使わない、誰かに利用されない)

です。これらの自立を子どもの成長に応じて確立させていくことだと書いています。

⑯そして、「様々な家庭の姿があり、そのどれもが子どもが愛される家庭であること。」とあります。この本は中学生や高校生向けの本でありながら、大人も十分ためになる本です。学生のみなさんも読んだことがなければ是非読んでください。教員になって学級担任になったときに絶対役に立つ、と話しました。

こうして90分の講義は終わります。毎年、話の微修正を行います。講義の順番はこれでよいのか、教員になる学生の心に響いただろうか。講義後の毎回の感想が楽しみでした。

⑰学校現場で現れる「子どもの事件」は子どもに問題があるのではなく家庭に問題があることも多く、そういった家庭の保護者が、実は大人の4つの自立ができていなかったりします。家事ができない親。子どもを放任する親。収入以上に浪費する親。子どもを虐待する親。学校事務職員も、職員会などで子どもたちの様々なトラブルを見聞きします。

⑱社会的な構造による保護者の問題から家庭の問題となり、そこから子どもの問題に発展する場合もあります。例えば、保護者が非正規労働者、経済的に厳しい、親のストレスを子どもに発散、子どもはそのストレスを学校で発散しトラブル発生、というケースです。ジェンダーの問題等教育社会学的な問題の理解も必要となってきた時代です。事務職員だから関係ない、と思わず、学校現場で子どもを育てる責任の末席にいることを忘れず、時々「教育社会学」みたいな本も読んで勉強するのも必要かもしれません。■