アップデートする学校事務職員

2050年学校事務職員への伝言

12時限目:「共同学校事務室」という活動

 12時限目は「共同学校事務室」の「共同」という言葉について考えたことを話します。

①11時限目で「学校事務のマネジメント」のことを少し書きました。Need/Wantのマトリクス表も「社会の評価(Need)」と「個人の動機(Want)」という言葉に置き換えることができます。これらは仕事を続ける上で必要なファクターだと思います。自分でマトリクスを書いて考えてみてください。

アメリカの思想家ハンナ・アーレント(元ドイツ国籍、アメリカへ)が人間の活動を3つに分類しています。

「労働 laborー人間の生存のための行為」

「仕事  workーある特定の目的達成を目指す行為」

「活動  actionー人間関係の中で自発的に行う行為」

③この分類で学校事務を考えてみたい。うーん、より倫理的に高次を目指す(できる)ならば、学校事務を労働 laborでなく仕事 workに持ち上げたいし、活動 actionというレベルまで引き上げてみたい。

④関連する英単語で「taskー具体的な個々の作業、業務」や「jobーやるべき仕事、金銭の発生する仕事」があります。よく使われる「good job!」は、「いい仕事できたね」とほめる時に使ったりします。お互いのモチベーションを高めるために、学校事務職員同士が集まったときに使ってみたいですね。後輩のIK君は、市費事務職員が配置されていた小学校で、任用形態を越えて(県費・市費ということ)一つの仕事が終わるとお互いに「Good Job!」とポジティブに評価し合っていたそうです。

⑤学校事務の個々の仕事はタスクです。例えば、旅費精算事務は間違いのない旅費請求事務につながる重要な仕事です。請求事務処理だけならタスク taskですが、私たちは学校事務職員なので、ひと手間加えて、旅費全体の執行状況や旅費が何のためにあるのか、どういう教育効果が期待できるのか、を考えるjobそして workにすることが必要です。そんなことする必要はない、という事務職員もいますが、私はそうできない性格なのでやってみます。

⑥私は配当された旅費額の年間支出を分析して、学校長に「教育研究のため職員県外出張旅費」が可能ということを提案したことがあります。しかし、学校は忙しく、教員にとって必要に迫られた会議等以外は余計な仕事となってしまいます。この提案は実現しませんでしたが、学校事務のどの分野でも、仕事 workにすることが目標です。

⑦共同学校事務室は活動 actionの世界です。長野県の事務研活動は1998年の中教審答申「学校事務の共同実施提案」以前から、地区単位で共同実践を行っていました。それは県事研の提案でしたが、実施の有無については長野県内も地域によって温度差がありました。私は自分の勤務した中信地区しか状況がわからないのですが、県事研の提案どおり実践していました。この事務研の共同実践は、諸手当認定事務の確認と旅費精算事務などの県関係事務を月一回集まって、お互いの書類をチェックしながら実務研修も兼ねるという(変則的なOJT)でした。

⑧1985年、私は30才でした。その年は塩尻市の学校に勤務していました。この事務研の共同実践で大ベテランの先生からいろいろ教わりました。毎月1回行われる共同旅費精算事務の相互チェックで、「〇〇くん、旅費は公費で県民の税金なんだから、もう少しちゃんと仕事してね。少なくとも合計金額は最低2回、電卓で計算して間違っていないか確認してね」と自分のいい加減な仕事を見抜かれていました。電卓で1回計算しただけでさっさと仕事を終わらせていたのです。大ベテランの先生の書類に計算間違いはなく、さすがという感じでした。間違いのない仕事は事務職員として当然のことなんですが、自分には仕事に対する緩い感覚があったのです。20学級の小学校でしかも一人職場でかなり忙しかった、という言い訳もあったのですが。

⑨それから寒冷地手当(長野県には寒冷地手当という手当があった)の法改正があり、旧支給額、新支給額、暫定支給額と何やら訳が分からない計算方法で比較し不利益にならない寒冷地手当が支給されるという時代がありました。この時、大ベテラン先生は「〇〇くん、寒冷地手当の計算方法がよくわからん。教えてくれ。」というので「先生、私が一緒に計算します。心配しないでください。いつもお世話になっているし。」コンピュータが普及する前の時代です。長野県の学校事務を立ち上げた黎明期の大ベテラン先生と若い私の give and take の学校事務コラボでした。

⑩さて、1時限目で2017年の地教行法改正で「共同学校事務室」作ってもいいよ、という法改正がなされました。私は「この改正は、学校事務のアップデートどころではなくバージョンアップに匹敵する」と書きました。1人配置基準の学校事務だけど、地域で寄り集まって助け合える「共同」の事務室を作り、そこをプラットフォームにしてお互いが学習し合い、自分の学校も隣の学校もみんなで地域の教育発展に関わっていくことができる制度、だと私は考えています。

⑪共同学校事務室の運営について、私は次のように考えています。

「共同」という言葉について英語で Joint という単語を当てたいと思います。これはすべての学校に教育に関わる県費事務職員を配置している全校必置の長野県だからこそ使える単語だと思います。そして「共同 joint」を「協働 collaboration」「協同 cooperation」と読み替えて、地域の共同学校事務室を運営することができるのではないかと考えています。

⑫O市で話した時の資料は次のとおりです。

⑬縦軸を「学校事務運営」と「共同学校事務室運営」、横軸を「個人」と「組織」とし4つの象限を考えました。あくまでも自分の勤務する学校が基本であって、そこからすべてが始まります。共同学校事務室は県教委から兼務辞令が発令されているので、個人レベルで隣の学校と「協働」することができます。また同一市町村に2校以上学校があれば「協同」でできることを実践してみる。複数の市町村にまたがるこの地区の共同学校事務室は、これこそ「共同」で地域全体の課題を解決していくことができるのではと思います。

⑭この考えの元になっている「共同学校事務室」は、複数市町村合同の共同学校事務室である長野県の「O市、K郡共同学校事務室(条例上は学校間連携とのこと)」です。この地域の場合を考えたからです。

⑮ここの場合は、全国的にみられる単一市町村のみの共同学校事務室ではありません。私個人はこの地域全体の共同学校事務室が長野県ならではの理想形(ローカル・バージョン)だと考えています。何故ならば、長野県の県費学校事務職員は3年から4年で人事異動で市町村を渡り歩くからです。例えば次の場合、とても困ったことになります。長野県に多い小さな村にある小学校と中学校それぞれに新人が配置された場合です。共同学校事務室の運営は難しいのではないでしょうか。経験不足では、教育委員会や校長会などと渡り合うことは難しいでしょう。

⑯「事務室」とネーミングされていますが、物理的な事務室は必要ありません。「共同学校事務室」という概念(コンセプト)が重要なのだと思います。

⑰「学校事務」誌の中で、いろいろな県の共同学校事務室の紹介記事を読んだことがあります。そういった「共同学校事務室」の形態例の一つに、地区に基幹校を設定し、その学校の会議室や空き教室に共同事務室を開設し役所のように机を並べて仕事をしている写真を見たことがあります。それは、疑似教育事務所のようでもあり、疑似教育委員会事務局のようでもあり、なんだか私にはそこがただの共同作業場のように見えました。もちろんそんなことはなく、共同学校事務室として重要な学校事務や学校教育を実践しているのだと思います。その時の感想は「物理的な形にこだわる必要はない」ように思いました。

⑮共同学校事務室は、その地域に集う学校事務職員が楽しく仕事するヒントを与えてくれるような、そんな「場(プラットフォーム)」になればいいなと思います。

⑯「共同学校事務室」を運営にまで持っていくには、多くのハードルを越えなければなりません。長野県の事務研で行った「共同実践」は事務職員同士の合意(研究研修計画)と校長会と教育事務所の理解の上で成立していました。市町村の条例や規則の改正を必要としなかったのです。そのハードルを越える意思と覚悟を持った事務職員たちのみが生み出せる世界であることは知っておいてください。■